2014 クリスマスコンサート ライブレポート

20150105

text by Tomohiro Tsuji

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今年度のクリスマスコンサートは、例年とは違い、池下のCLUB UPSETで行われた。いよいよ寒さも厳しさを増し始める12月半ばを過ぎているが、熱気は十分に感じられた。

tonmoe

ライブのオープニングとして登場したのは、アコースティックデュオの”とんちともえぴ”。2人編成というディスアドバンテージを越えての出演だ。賑やかなSEとともに登場した二人はいつもよりやや緊張しているようにも見える。しかし、クリスマスコンサートという場に出演することの喜びを存分に体現する演奏とMCは、まだライブの始めでやや控えめな空気を柔らかいものへと変えていった。歌声はいつもより伸びやかで二人の息もピッタリと合っている。終始和やかな雰囲気で、トップバッターとしての役割を十二分に果たすライブだった。

  1. うたた寝ぐっばい
  2. こんなんエブリディ(新曲)
  3. わたしね、
  4. ばいばいおやすみ
  5. 晴れたりめらんこりー

echo

次に登場したのは、”echo”。Gt. バンマサキが一曲一曲に込めたメッセージ、情景、心象を他のメンバーがしっかり包み込み表現している。今年度のコンピレーションにも収録されている”海中”は特に各パートの美しさが際立って感じられた。深みのあるキーボードフレーズから始まりそこにベース、ドラム、ギターが加わっていき、次第に盛り上がりを見せる楽曲は、海底でさざめく海藻、キラキラと身を翻す魚たち、色とりどりのサンゴが深い青の中で一枚の絵画のように描かれていく。一方でベースがうねり、ファンファーレを思わせるシンセフレーズの鳴り響くダンサブルな楽曲”Sakae”も披露したりと、その懐の深さを見せつけた。

  1. Scrap & Build
  2. a girl in the forest
  3. 海中
  4. What You Need Is What I Hate
  5. Sakae

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次のバンド”猫を堕ろす”はそのバンド名とは裏腹に、ドライブ感のある弦楽器隊と電子オルガン調のざらついたキーボード、Vo. 杉浦優子の頭から抜けていくようなボーカルの絡み合うポップバンドだ。自然と気持ちがウキウキしてくるような楽曲たちは、ただ楽しげなだけでなく、コンポーザーの伊藤薫人のこだわりが随所にちりばめられていてフックが効いている。昨年のコンピレーションに収録されていた”アルジェの女たち”などはウィットの効いた歌詞も相まって特にこのバンドを象徴しているように感じた。あと個人的な意見としては、”舌足らず”をまたバンド形式で聞けたことが嬉しかった。

  1. ウィンターウェイティング
  2. 舌足らず
  3. 日傘のリーズ
  4. 予約
  5. アルジェの女たち

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前半の最後を締めくくるのはスリーピーステクニカルインスト、”headache”だ。オープンチューニングをうまく使った清涼感のある楽曲たちは、Gt. ワタナベヒロトのポストロックへの傾倒が感じられる。タッピングと指弾きを使った演奏は、個人の技量の限界に挑戦しようという心意気が伝わって来る。”skirt”や”ibis”などで、ただポストロックなフレージングだけにとどまらず、サビではしっかりと歌い心のあるコード進行を持ち出してくるあたりが、テクニックに傾倒しながらも飽きずに聴かせる説得力を与える。最後に披露された新曲、”a ghost secret”は単音フレーズよりも、歪んだギターでコード進行のエモーショナルさを引き立たせてくる楽曲でエモの影響を感じるものだった。

  1. cycle
  2. skirt
  3. ibis
  4. fail to escape
  5. a ghost secret

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10分の休憩を挟み、後半の1バンド目として登場したのは、名古屋市内を中心に積極的活動を展開する”蒼い芝生”。暗鬱なSEと共に登場した彼らには、他のバンドとは一線を画す、ヒリヒリとした緊張感があった。”此処で目冷める”、”コクーン(生活感)”など、冷たい質感の楽曲から始まり、彼らの熱量は次第に上昇していく。飾らないビートを刻むドラムに、時折不穏なノイズ、発振音を絡ませながらも地を躍動するベース、そしてそこに覆いかぶさるようにして鳴る冷たく、しかし、情動的なギターとボーカルとが繰り広げる音像はまさに三位一体と呼べるものだ。変則的な展開で聴く者を揺さぶる”鮮やかな赤”など、シンプルに歌を聴かせるだけではない余裕を見せながら、最後の曲、”幽鬱(スプリーン)”で、激情の奔流と共に演奏を終えた彼らは、確かにこの日に大きな爪痕を残していった。

  1. 此処で目冷める
  2. コクーン(生活感)
  3. ペーター・キュルテンに寄せて
  4. 鮮やかな赤
  5. 幽鬱(スプリーン)

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後半戦2バンド目となるのは、”Tor Tor Toor”。コンポーザーであり、自身もバンドではキーボードを担当する吉光俊介の思い描くガールズポップの形を、ボーカルである浅山萌が歌い上げる。しっとりとしたものから陽気なアップテンポの楽曲まで、作り分けながらも一貫して”Tor Tor Toor”というカラーを纏わせる作曲センスはさすがの一言だ。また、今回は2曲カバーでのライブだったが、どちらのカバーもただコピーしました、というようなものではなくしっかりとアレンジがなされていたのも秀逸だった。また、派手ではないが要所要所においてしっかりと自分の仕事を果たすギター、ベースの弦楽器隊と、軽やかにリズムを紡ぐドラムもうまくこのバンドを盛り上げている要因であることに間違いはない。一足早く春の到来を感じるような気持ちにさせられた演奏だった。

  1. セットリストは割愛。

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岡村靖幸をBGMに再びフロントマンとしてステージに現れた伊藤薫人が率いるのは、”ウルトラH”。「誰にも負けない人になる。」という力強い宣言が繰り返し歌われる、バンドのリードトラックとも取れる”ウルトラビジター”を筆頭とし、次々と強気のロックチューンを打ち出していく。伊藤自身の今まで渡ってきたバンドの曲も交えつつ、エネルギッシュなライブを続けていく。”ドリームミー”や伊藤の前身バンドである”一橋燃やシスターズ”時代の名曲”アピール”ではダンサーも登場し、会場を大きく沸かせた。全曲を通して聞き応えのあるリードギターと、時折あるバッキングとの絡みも面白い。

  1. ウルトラビジター
  2. 夜と霧
  3. ゆらぎ
  4. ドリームミー
  5. アピール
  6. 泥水

garaso

満を持してラストに登場したのは、セッション系インストバンド”Garaso Trio”だ。もはや何を語る必要もなく、各々が持つテクニックを最大限に見せつけるライブにフロアからは拍手が飛ぶ。ジャンル上、若干内輪的な演奏となるのは仕方ないが、突然飛び出すキャッチーで愉快なフレーズが飽きさせない良いアクセントになっている。初期に比べ、楽曲のテクニカルさも向上し、このバンドが2年で築き上げてきたオリジナリティがまさに結実した結果だと感じた。”Triple bogey”の演奏を終え、温かな拍手に包まれ場を後にした彼らはやまない手拍子に応え、やや気恥ずかしげに再び登場した。アンコールで演奏されるのはもちろん、代表曲となった”Unique Clothing House”だ。イントロのフレーズの始まりとともに、フロアからは待ちわびたかのような声援が飛び込む。途中で”Psycho”な予感を感じさせるお遊びも登場し、会場は大盛り上がり。3人のエネルギーを出し切った演奏からは、誰しもが熱いパッションを感じただろう。その日一番の大きな声援と拍手に包まれ、彼らはステージを後にした。

  1. Scrap
  2. Nice Middle
  3. Monkey Trance
  4. Triple bogey
  5. Unique Clothing House(アンコール)

こうして全公演は大盛況のうちに終了した。まさに2014年のフォークソング同好会の集大成であった、このイベントが多くの人に足を運んでもらえるようなイベントと成り得たのは、出演者の演奏はもちろん、企画、広報、デザインなど準備に携わった多くの人間の努力があってのことに相違ない。この場を借りて最大の賛辞を送りたいと思う。来年もまた、素晴らしいクリスマスコンサートが見られることを期待する。

また、このような場を用意してくれたこと、本当に嬉しく思います。僕の稚拙な文章を最後まで拝読してくださった奇特な方々にもまた、最大級の賛辞を送ります。長々とありがとうございました。ライブから日が経ってしまったのはご愛嬌ということで。

来年はステージでみなさんとお会いしたいです。